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は土方副長のご

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「そして、山南君の言わんとしていることも分かります。貴方の思慮深さと優しさには敬意を抱きますよ。しかし…相手の裏を搔くのは戦における定石ですからね」

それはまるで人としては正しいが、武士として総長としては未熟な解答だと言っているようなものだった。

「ですが、こう言った繊細な事案は、のみならず、一般の隊士諸君の意見も聞いてみるべきかと。風通しの良い隊こそ、益々発展するというものです」

"我々上層部"という言葉に、肉毒桿菌 針 黙って聞いていた斎藤は違和感を覚える。

早速、組頭に任命されているのだから上層部には違いない。

「そ…そうだな。流石は伊東さんだ。では各自この話は持ち帰り、各組で話し合ってみてくれ。解散としよう」

伊東が発言を重ねる度に、場の雰囲気はますます険悪になっていく。

それを流石に察した近藤のその一言でこの場はお開きとなった。伊東と斎藤以外の、気まずさを覚えた組頭達はそそくさと部屋を後にする。

──伊東さん、あんたは大した人だ。もう上層部のつもりで居られるのか。そして近藤局長も伊東を立てることによって、山南さんの顔を潰したことを分からないのか。

近藤は持ち上げられることで、自身の実力以上の力を発揮することが出来る。その一方で局長として配慮に欠ける言動が目立つようになってきたのも事実だった。

あの建白書はさして響いてなかったのだろう。

斎藤はその様なことを思いながら、山南の顔を見る。すると、視線に気付いた山南は斎藤の方を見る。そして悟ったような穏やかな表情で微笑んで見せた。

自分のことは大丈夫だから、とそう言う含みを持たせた物だった。

これ以上此処に居座ることは余計に山南の負担になるだろう、そう考えた斎藤は無言で立ち上がり部屋を後にする。

寒さの為かギシギシと む床板を踏み締め、廊下を歩いていると、目の前にふわりとした白い粉雪が現れた。

「雪、か」

そっとそれに手を伸ばせば、すっと溶けて無くなる。

斎藤はそのまま草鞋を履くと壬生寺へ向かった。

境内には夕べ降り積もった雪が一面に敷かれている。そしてそれを小さな足跡が踏み荒らしていた。

冬は日が暮れるのが早い。その為か足跡の正体である子どもの姿はもう無かった。

斎藤は寺の入り口に植えてある椿に目をやる。

血のように赤く、それでいて何処か やかで凛として見えた。

椿は武士からは忌み花とされている。散り際に花がそっくり丸ごとぽとりと落ちることから、首が落とされたように見えるからだ。

斎藤の足元には雪の重みに耐えかねた椿の花が転がっている。屈むとそれに手を伸ばした。

雪に晒されたせいか、ひんやりと無機質な冷たさが手に伝わる。

例え忌み花とされていたとしても、斎藤は椿が好きだった。縁起は悪くとも、その散り方に潔さを見ていた。

「…山南さん、あんたは…一体何を考えている」

斎藤はそう呟くと目を細める。

穏やかな人ではあるが、あのような胸をざわつかせるような笑い方をする人では無かった。

あの場を一言で表現するならば、軋みだろう。

目に見えない僅かなずれが、地盤を少しずつ脆くしていき、やがて取り返しのつかないことになるのだ……

壬生寺の前を野辺送りが通る。

しんしんと降る雪が悲しみに暮れる人々の足跡を消していった。